銀杏並木のストレートコースを抜け、聖徳記念絵画館へと続くカーブに差し掛かる。細い車輪は、鋭く風を切る特有の音をたてる。車体を傾け、弧を描きながら、一瞬のうちに目の前を駆け抜けるロードレーサーの車列に、「速い!」ふと口走る。都会の中心に作られた特設コースを舞台に、26大学、160名もの学生レーサーが凌ぎを削る、2月11日第二回明治神宮外苑学生自転車クリテリウム大会を観戦した。
そもそも、今大会の『クリテリウム』とは、どんな意味なのだろうか?辞書には、「街中に作られた短いコースを何度も周回する自転車レースの事」とある。一般のロードレースは、マラソンにおけるレース形式と同様、スタートとゴールが離れた場所にある。しかし『クリテリウム』はこれとは性質が異なるもの。観客の前を何度も通過するが故に、選手を追いかけずとも、転々と移り往く順位、レース展開が、手に取るようにわかる。観戦客にとっても優しい競技だ。
では、レースは?というと、その見どころは多肢にわたる。目の前を時速40kmで通過する自転車の“スピード観”はさる事ながら、平坦でカーブが連続するコースでは、時に順位争いの末の、大クラッシュが演じられる。そんなレースは、緊張の連続。見ている側も手に汗握る。
そして何よりも、このレースの最大の魅力は、“駆け引き”にあると言えるだろう。今大会は、コース2周回(1週約1.5q)ごとに、ポイントが与えられる“中間スプリント”を採用する。これは、完走周回数が多いものがレースを制するという基本ルールと共に、最終的な獲得ポイントで勝者が決定するという性格を合わせもつ。いくらゴールの着順が良くとも、総合獲得ポイントが低くては、勝利は掴めない。いかに体力を温存し、高ポイントを取り続けるかと言う事も、勝敗に大きく関わってくる。レース中盤、上位集団につける選手は、相手の様子を伺い、牽制を始める。速度を緩め、ライバル選手の出方を見計らう。ゴール直前の競り合いは、そんな駆け引きの熾烈さを物語る。スピードだけではない“精神面”での戦いも、この競技の魅力の一つだ。
現在、自転車ロードレースの出身者としては、F1ドライバーとして活躍する佐藤琢磨選手(早大自転車部OB)が有名。スピードを極限まで高め、時には心理戦を演じる、それは確かにF1に通ずるものを感じる。風を切り、F1マシンさながらのスピード観で、街を駆け抜ける自転車レース。これを期に、今後もその戦いから目が離せなくなりそうだ。
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